お金が発するメッセージ---よい小遣い、悪い小遣い

2005.7 榊原節子(東京在住)

まだ子ども達が小学生だったころ、「お小遣い契約書」を取り交わしたことがあります。ハンコも押してありました。そこには「電気のつけっぱなし、部屋の乱れ、雨戸の開け閉め、頼まれたお手伝いを忘れた」場合は警告のうえ罰金10円、重い場合はその倍額を科すといった旨が5ヶ条に亘り書いてありました。長男の小遣いがまだ月額1000円、次男が900円、25年位前のことでしょうか。金銭教育など聞いたこともありませんでしたけれど、私をはじめとする同世代の親はそれなりにいろいろ工夫していたはずです。

お金には磁力線のようなエネルギーがあるのです。だから子どものしつけ、家庭教育の手段としても大いに威力を発揮します。小遣いを例にとりましょう。卓也君は買い食いをし過ぎて小遣いがなくなってしまいました。自分で出す約束の「友達のバースデイプレゼント用の金が全くありません。「お金がない!出して」とねだられて、お母さんは「まあ大変」と、すぐお金をあげてしまいました。

実はこんな事が毎週のようにどの家庭でも繰りかえされているのです。これでは「自己責任を取らないでいいのよ」「何かあったら私に頼ればいいの」というメッセージを声高らかに発してしまっていることになりませんか。そうやって育てられた子どもがいつも他人を当てにし、何といっては他人の所為(せい)にする頼りない大人になったとしても不思議ではありません。そんな子どもは何歳になってもスネカジリにいそしみ、それを見て育つ孫もきっと同じように育つでしょう。

同じおねだりをされたサヤカちゃんのお母さんはしっかりしています。「それは困ったわネ。自分で何か作ってプレゼントにしたら? 来月からはお金の使い方をもっとうまくやろうね。一緒に予算の立て方を勉強しましょう」と明るく言いました。こうして初めて子どもに「欲望のコントロール」「工夫の仕方」それに「お金を遣うシナリオ作りのやり方」まで教えていくことができるのです。子どもが「そんなの嫌だヨ、ダサイ」とゴネたらどうしますか。子どもの不機嫌さや抵抗に屈してしまったり、或いは「仲間はずれされたり、問題を起こされたら大変」と子供におもねてしまえば「私は子供の家来です」というメッセージを伝えてしまうことになります。

「小遣いの額はお隣のみどりちゃんと同じにしようネ」と提案する親は、「他人と同じようにするのが無難で一番」、「判断は他人まかせ」というメッセージを暗黙のうちに送ってしまっています。勿論世間相場を参考にするのは大切なのですが、小遣いがどの分野をカバーするか、学用品は子供負担にするかどうか、また各家庭の経済状況次第で金額は自ずと異なってくるのではないでしょうか。親は、「そうね、お友達より少ないかもしれないけれどウチはこういう方針にしましょう」とはっきり示すことで子どもに「独自性」を教えることにもなります。

また子どもに夢貯金の楽しさを是非味わわせてくださいネ。子どものやりたいことは何ですか? 清君は「ハワイのマラソン大会に参加する」という大きな夢を持っていました。毎月小遣いから貯金して、お年玉も全額貯金して頑張るよう励ましましょう。清君自身きっとあれこれ考え始めるに違いありません。「家庭内アルバイトは出来ないかな」、「お祖父ちゃんやお祖母ちゃんの手伝いをしよう」「もっと節約しよう」。ハワイの海やヤシの樹が目にちらつき頭はフル回転し始めます。創造力が生まれます。それを見た両親は「同額補助」を申し出ました。清君は大感激で更に張り切ります。我慢したり、努力したりすることが楽しくさえなってきました。

その夢を実現したとき子どもは心が震える体験をします。同時に「努力すれば欲しいものが手に入るんだ」「自分の力でやれたんだ」という確信を持つはずです。これほど貴重な宝はありません。将来が楽しみな頼もしい子どもの誕生です。ところが、親が「海外は危ないわよ。友達に目立ちたがり屋と言われるのがオチよ」といったらどうなるでしょう。ハワイ行きがダメになるだけではありません。親の心ないひと言で無残に押しつぶされ、「何してもろくな事はなさそうだ」と思うような無気力な子どもを作ってしまうことになりませんか。

同様に小遣いを与えた後も、親が煩わしく、「あれはダメ、これはするな」と言い、果ては使い方まで決めてしまうことは、「どうしてそんなにダメなの」「一人では何にも出来ない」というインプットをしているようなものです。親は愛情を注いで子どもを守っているつもりかもしれませんが、子どもは、ある日「実は親にコントロールされていたんだ」と気付き、愕然とするのではないでしょうか。文字通り「切れて」しまうかもしれません。アドバイスはしてもその後は全て子どもに任せることで、「あなたを信頼していますよ」のメッセージを送ることになります。任せられなければ面白くありませんし、工夫のしがいもありません。勿論失敗を沢山するでしょう。でもそうしてお金のマネージメント術を身につけていくのです。

このようにお金にはメッセージ発信機能があるのです。それを「しつけ」や「才能伸ばし」に利用しない手はありません。その第一歩が小遣いを通してのお金教育です。最近上梓した「わが子が成功するお金教育」(講談社+α新書、781円)では小遣いのことと共に、手伝い、豊かになった時代のしつけについて触れていますのでご参照ください。

榊原節子
ホームページはwww2.odn.ne.jp/sakakibara/です。


目次