米国企業が元気な理由(その1)

1999.5.30 七尾 清彦

米国企業は、今をときめくベンチャー型の小型企業にとどまらず、最近ではブルーチップといわれるIBMなどの伝統的大型企業もすこぶる元気がよい。私は今、コロラド州コロラドスプリングスという町に1年くらいの予定で逗留し、こちらのビジネスマンに会ったりしてその秘訣を探っている。(本稿はシリーズ第1作である。)

1. 軍人から証券マンへの転進

米国でも屈指のM証券投資会社の当地支店の幹部T氏と最近ランチを一緒にした。彼は30年間あまり米空軍の技術将校としての経歴を積み上げてきたが、軍組織内部の官僚的雰囲気に飽き足らず、最近軍を辞め、かって軍で上官だった人物が副支店長をしているM証券に転身したのである。Tさんによれば、証券業も最近はコンピュータによる新しい金融商品の開発などが盛んだし、また軍での管理業務の経験も結構、会社組織では役に立つので、決して破天荒の転進ではないとのことである。

2. 人間同志の信頼関係が基本

日本で抱かれている米企業の一般的イメージとは、マイクロソフトのビル・ゲイツ社長のように天才的な一人の個人が、その能力で会社を急速に大きくしていくというものであろう。そのような例もたしかに多いが、T氏によればより一般的なのは、社内で一緒に仕事をするメンバー同志の間の人間的信頼関係が会社発展のエネルギーの源だというのである。

彼によれば、米企業も人間で構成されている組織であり、個人主義と優勝劣敗のサクサクした人間関係の会社は決してうまく行っていないというのである。日本の浪花節的な義理人情、東洋の仁義礼智信によるウエットな人間的つながり(紐帯)と似通ったものが米国にもあるというのである。

彼は、かって軍で上官だった人物が今回、自分のM証券への転進を薦めてくれたこと、軍では生死を共にするほどの信頼関係にあったこと、などから彼のためになるなら全知全能をしぼってでも遮二無二働く心の用意があるというのである。

そう言えば、アメリカのウエスタン音楽の歌は、義理人情、正義、女性への騎士道精神などをテーマにしてあなどりがたい根強い人気を維持しており、いわばオールドウエストの価値観が、ハイテクなどと結びつき活力あるニューウエストを創り出しているとの面が強い。これは筆者のこちらでの生活実感である。

3. チームワーク社会

日本と米国の企業経営が、異なった道をたどってしまうのはどうやら組織重視か、チームワーク重視かの点であるように思われる。

T氏によれば、会社のオペレーションも軍の戦闘行動も同じで、米国では、組織は一応あるにはあるが、あるターゲット(たとえば新規顧客の獲得など)を実現するためには、まずそれに必要な能力を個々人が補完しあう形の最強のチーム編成が必要であり、このような条件に合う個人が各部局から抽出されチームが編成されるという。編成されたチームの構成員は、もとの所属部局の意志や方針とは独立した立場で作戦を立て、成果第1主義で動いていくというのである。

日本でもタスクフォースの編成などが企業内でしばしば行なわれるが、往々にして所属セクションの利益確保やお目付け役としてメンバーが出てきており、出身組織の維持と防衛が第一の目的となっていることが多い。チームとしての自律的有機的な活動が阻まれてしまっていることが余りにも多いのではなかろうか。


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